医療・ヘルスケアの個人、スタートアップを主役に

治療用アプリの課題とMR活動の可能性

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国内外の製薬会社においてMR業務に従事。2012年には国内5%表彰にあたるJapan Salse Excellence Awardを受賞。その後、外資系コンサルティング会社にて、製薬企業の営業・マーケティング、PV、PMS部門の戦略策定から組織・人変革、BPRまで幅広い業務に従事。 現在は、独立しヘルスケアスタートアップ、製薬会社の営業・マーケティング、新規事業開発を中心に、コンサルティングを実施。
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記事の概要
今回の記事はこんな人のために書いています

  • デジタルヘルスが営業・マーケティングに与える影響を理解し、戦略立案に役立てたいと考える営業・マーケティング責任者
  • デジタルトランスフォーメーションを推進することになったが、何をすればよいか分からない営業・マーケティング担当者
  • 次世代MRに求められる役割・業務を理解し、成長したいと考える現場MR

今回の記事を読むと以下のことが分かります

  • 治療用アプリの課題
  • MRの役割・活用

こんにちは、スターコネクトコンサルティングの水本です。

今回の記事は、製薬業界向けの営業マーケティングの業界専門誌のMonthlyミクスで2021年7月号に掲載した、「治療用アプリの実力とMR活動の可能性」について記載した内容をご紹介したいと思います。

Monthlyミクス7月号でも公開していますので是非、ご興味ある方はご覧ください!

それでは以下にご紹介します!

はじめに

前回は治療用アプリの前半戦として、「国内外の動向」並びに「治療用アプリの実力」についてみてきました。近年、国内外でデジタルヘルス領域でのスタートアップ、大企業のパートナーシップが開始され、市場が活気づいてきたことを見てきました。またWelldocのBlueStarのデータを元に、薬剤と同等の効果を得られる可能性についても考えてきました。一方で、実臨床下でしっかりとした効果を発揮させるには、患者さんが治療用アプリを継続して使用することが何よりも大事で、医師・患者サイドの意識の高低が治療結果に結びついてくる可能性が高い点についても言及しました。前回までの内容を踏まえ、今回は、実臨床下で治療用アプリの効果を最大限発揮させるうえでの「治療用アプリの課題は?」について見ていきたいと思います。またその上で、「MRはどの様に活用すれば良いか?」についても仮説ベースで考えていきたいと思います。

それでは早速今回も、ヘルスケアスタートアップで働く佐藤と、製薬会社でMRをする田中との対話を通じて、本テーマについて考えていきたいと思います。

前回の打ち合わせ後、海外事例の調査を行っていた田中MRは、ある一つの論文にたどり着いた…。

治療用アプリの課題は?

「おー田中、久しぶり。前回話し合った結果を踏まえ、治療用アプリを現場で活用する上で何かヒントになることは見つかった?」

前回のMTGから田中は、海外の論文、ニュース等手あたり次第情報を収集・整理を行っていた。最初は土地勘のない領域であり、海外事例調査に手間取っていたが、MR活動での海外論文検索の経験が役立った。結果、ある一つの論文にたどり着くことが出来たのであった。

「いやー、この2週間結構苦戦したけど何とか情報を纏めることが出来たよ。色々と調べてみたんだけど、ある論文にたどり着いたので、後で紹介させてほしい。前回の打ち合わせで、治療用アプリが薬剤と同等の効果があることを見てきたと思うけど、様々な施設、医師、患者がいる実臨床下においても同様の効果が発揮できるのかについては、もう少し見てみる必要があると佐藤からアドバイスを貰ったと思う。」

「実臨下において、治療用アプリの効果を発揮させるうえで、どんな課題が考えられるかな?」
 佐藤からの質問を受け、田中は何やらホワイトボードにポンチ絵を書いていった。

「通常のアプリと同様だと思うけど、継続して使用する上で、患者側にとってはまず、『入力が面倒ではないか?使いやすいか?』という点は非常に重要だと思う。実際に今までは糖尿病治療を行う際に、患者さんは糖尿病連携手帳等の紙に記載しているのに慣れていたのに、もし2重入力が必要とかもしなったら、ちょっと嫌だよね。」

「また、入力結果を受けて、個別最適化されたメッセージが発信されるのが治療用アプリの一つの特徴だと思うけど、もしアラートが頻繁にきたらどうだろう?アラートになれちゃって、無視するようになっちゃうよね。実際自分も違うアプリだけど、アラートを気にしなくなることを経験している。」

「また、『多すぎるアラート』という点については患者だけでなく、医師に対しても同様に重要な観点だと思う。この話は、治療用アプリの話ではないけど、あるAIを用い、患者の発症リスクを検知するシステムを導入した病院では、多すぎるアラートにより、看護師が人と機械の“調整役”になるケースもあるみたい…。」

「AIならではの難問なんだと思うけど、多くの機械学習アルゴリズムでは、一つ一つのアラートが発せられた理由を特定することは難しい。医師に伝達するときには、『なぜそのアラートが重要なのか?』などの警告を裏付ける必要がある。こうなると何のためのAIなのかという議論も出てくると思うけど、結局の所、人と人とのコミュニケーションが大事になるということなのかもしれないね。」

「人と機械の“調整役”」という言葉にMRの介入ポイントを感じる佐藤であった。

「有難う。『人と機械の“調整役”か!』非常に面白い話だね。個人的には、ここはMRの活躍する部分だと思う。今後、デジタルデバイスが増える中、情報は爆発的に増える。その時に、意味のある情報は何なのかを咀嚼・整理し、顧客に伝えることは重要で、人が担う部分は以前として大きい。」

「でも、これらの課題があるということは、やはり実臨床下では論文同様の効果は期待できないってことなのかな?」

「いや、違うよ。俺も当初は、実臨床下ではこれらの課題があるから、全く同じ効果を再現するのは難しいかな?と思っていたんだけど、調査を進める中である一つの論文を見つけたんだ。今回はその論文について、紹介させてほしい。

治療用アプリの効果を最大化するには?

「今回紹介するのは、『A Mobile App to Improve Self-Management of Individuals With Type 2 Diabetes: Qualitative Realist Evaluation』。前回同様、一緒に読み合わせしていこう。」

「まずは、背景と目的から。今までの話に出てきたように、多くのアプリ利用者は『データの負担の大きさ』、『隠れたコスト』、『興味の喪失』等の理由により、デジタルデバイスの使用を諦めることが多いと言われている。また前回紹介したWelldocの論文もそうだけど、『効果』に焦点を当てた研究が多く、『なぜ成功(または失敗)したのか?』などの寄与する『因子』を明らかに出来ていないという課題があった。」

「なるほど。確かにそうだよね。アプリの効果はしっかりと使ってもらうことが大事、ということが前提なのであれば、具体的に『どの様な人に?』『どの様な状況で?』使ってもらえば効果を最大限発揮するか、事前に分かれば効果的な使い方が出来るというわけだね!」

「流石、佐藤。その通りだよ。治療用アプリで効果が出やすい、人、状況が分かれば、処方時点で医師も処方しやすくなるし、処方後もどの部分に注意すべきか分かってくると思う。MRが情報提供する際も、処方時・処方後フォローの各時点において、患者さんに応じて必要なフォロー/情報提供を行っていくことが出来ると思う。

「継続して使用してもらうことにより、効果も出るから医師も患者さんもハッピーになるし、MRとしてもより効果を出すために、患者に応じた必要な情報をカスタマイズして提供できるから手ごたえも感じれると思う。ちょっとこの点については後で、詳しく議論させてほしいな」

単なる論文調査だけでなく、自身のMR活動の経験を踏まえて、どうしたら患者さん、医師に貢献できるか、治療効果を最大化できるかという観点も考える田中を素晴らしいと思う、佐藤であった。

「そうだね。単なる文献調査だけでなく、具体的な現場での経験を元に何が出来るかと考える、田中は素晴らしいね。じゃあ、結果を教えてくれるかな」

「合計26回(ベースライン14回、フォローアップ12回)のインタビューがT2DM患者16名に対して行われ、グループ①~③にグループ分けがされ、効果を確認している。HbA1cの改善は、グループ①、②で見られ、グループ③では効果が見られなかった。またインタビュー結果を受け、これらの臨床結果に寄与する因子として、HbA1c改善を促す因子として『自己効力感』『治療に対するモチベーション』、阻害因子として、『競合する優先事項』、『心理社会問題』と言ったものが特定された」

単なるHbA1c改善効果が得られたという結果だけでなく、「促進を促す因子」、「阻害する因子」まで特定できたのは興味深いと感じる佐藤であった。

「つまり『自己効力感が高く、治療に前向きで、本人だけでなく、家族や周りからのサポートを受けながら治療を行うことができる』患者さんは、治療用アプリによるHbA1cの改善効果が得られやすいということかな?」

「そうだね、あと個人的な考えだけど、これら効果に影響を与える促進・阻害因子が事前に特定できているのであれば、アプリが処方された後に、アプリの入力内容を元に各因子について、スコアリング等を行い、効果の出にくいリスクの高いとされる患者を特定し、必要に応じて個別にメッセージ、フォローを行う等の対策も出来るようになるよね。全ての患者に等しくフォローアップは出来ないけど、こうやってアプリ内のデータを元に、事前にリスクの高い患者のみ拾えれば、フォローアップも効率的に出来るよね。もしMRの面会の時にこれが出来れば…。」

患者データの活用については、個人情報の取り扱いやコンプライアンスの問題もあり全てが可能にはならないと思うが、一度自由に発想してみるのは面白いなと思う、田中であった。

「ありがとう。治療用アプリの課題から始まり、効果に寄与する因子並びに、今後の可能性まで幅広く、議論出来て良かったよ。最後に折角だからここまでの議論を踏まえて、『将来MR活動ではどの様に活用していけば良いか』について自由に議論してみない?勿論答えの無いことだから、あまり正解に拘らず自由に議論しよう。是非、現場の感覚を大事にして田中の意見を聞かせてほしい。

MRはどの様に活用すればよいか?

突然、佐藤から「将来MR活動でどの様に活用していけばよいか?」について話を振られ戸惑ってしまったが、新しいことを自由に考えることにワクワクする田中であった。

「以前、『今後求められるMRとは?』について考えた時に、自分の考えとしては、単なる『処方数増加、複数製品採用により売上を最大化させる担当者』ではなく、MR活動の中心に患者さんを置き、『医師とその先の患者の成功を導く“伴走者”』として定義したことがあるんだ。その観点から言うと、今回の議論で、アプリへの入力内容を元に、効果の出にくいリスク因子を抱える患者さんを特定出来るのであれば、処方後も継続的にフォローし、必要に応じて追加のフォローを促すことも出来るのであれば、患者さんの治療目標達成、すなわち成功に導く“伴走者”としての役割を果たせると思うな」

「凄く興味深いね。データセキュリティの観点もあるので、考えたことが全て実現できるかはわからないけど、田中が話したようなことができれば、MR活動を通じて医師とその先の患者さんを成功に導くことが出来る伴走者としての役割が出来れば、本当に素晴らしい役割を担うことになるよね」

「おっと、気が付いたらもうこんな時間か…。まだまだ議論したいこともあるけど、今回はこの辺にしておこう。この調子で次回以降の打ち合わせの準備をお願いね。

おわりに

どうだったでしょうか。今回は、治療用アプリの課題から始まり、効果に寄与する因子、今後の可能性並びに、MRの情報提供への活用まで考えてきました。

今回考えてきた内容はあくまで仮説ベースではあるが、治療用アプリをはじめとしたデジタルツール活用の営業現場における可能性は大きいと思います。

治療用アプリ開発において、要件定義や構想段階では、現状、「医師・薬事・臨床開発」メンバーを中心に進むことが多いと思います。勿論、最終的な使用者は、「医師・患者」ではあるが、それを「サポートするMR」という観点から考えても、MRが開発段階から積極的に議論メンバーに入っていくべきだと個人的には考えます。

一般的な薬剤では営業・マーケティングの関与は、「臨床試験で結果が出た後」からの関与だったと思いますが、これらのデジタルデバイスでは、製品開発の「構想段階からの関与」、「開発部署との連携」についても、今後は営業部門に求められる新たな役割なのかもしれません。

⇒第五回:「オンライン診療とは?」を読む

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