記事の概要

今回の記事はこんな人のために書いています

  • デジタルヘルスが営業・マーケティングに与える影響を理解し、戦略立案に役立てたいと考える営業・マーケティング責任者
  • デジタルトランスフォーメーションを推進することになったが、何をすればよいか分からない営業・マーケティング担当者
  • 次世代MRに求められる役割・業務を理解し、成長したいと考える現場MR

今回の記事を読むと以下のことが分かります

  • 治療用アプリの国内外の動向
  • 治療用アプリの実力

こんにちは、スターコネクトコンサルティングの水本です。

今回の記事は、製薬業界向けの営業マーケティングの業界専門誌のMonthlyミクス2021年6月号に掲載した、「治療用アプリの実力は?」について記載した内容をご紹介したいと思います。

Monthlyミクス6月号でも公開していますので是非、ご興味ある方はご覧ください!

それでは以下にご紹介します!

はじめに

前回は「デジタルヘルスとは何か?」について全体像を捉えたうえで、変化に影響を与えるテクノロジーについて、「治療用アプリ」と「オンライン診療との掛け合わせで何が出来るか?」について見てきました。第3回となる今回は、前回までの内容を踏まえて、治療用アプリの詳細について、「国内外の動向」並びに「治療用アプリの実力」について見ていきたいと思います。また、次回は、後半編として、現時点で見えてきた「治療用アプリの課題」を踏まえ、現場でどの様に運用していくかについても、一緒に見ていきたいと思います。是非、今回も田中MRに投げかけられる問いに対して、読者の皆様も一緒に考え、自分なりの答えを見つけていって欲しいです。

前回の打ち合わせから2週間。治療用アプリの詳細について調べてくるように言われた田中MRは、ネットや友人からのヒアリングを通じて情報を取り纏めていた…

ヘルスケアアプリとの違いは?

「やあ、田中。あれから治療用アプリについて上手く纏めることは出来た?今日は、田中に2週間で調査してもらった内容を元に、議論しながら内容を深めていきたいと思う。今日の議論は基本的には田中の方でリードしてもらってよい?」

「了解。2週間で自分なりに纏めた内容について、共有していくから疑問点とかあればどんどん質問して言って欲しい」

初めてのファシリテーションに少々不安はあるものの、前回の議論の反省を踏まえ、この2週間しっかりと田中は準備を行ってきた。

「前回の打ち合わせから少し時間もたっているから、初めに簡単に振り返りをおこなったうえで、2週間で行った調査について共有するね」

「前回の議論で治療用アプリとは、1.『日常生活に介入』し、2.『行動変容』を促し、3.『既存治療の1/10程度の研究開発費で、医薬品と同等の効果が認められる』ものだった。また、今後オンライン診療等のテクノロジーとの掛け合わせによって、診療から在宅までの全てのプロセスで患者さんと接点を持ち、モニタリングを行い、必要に応じて介入が出来るようになる。つまり、患者さんのペイシェントジャーニーを包括的に管理することができる未来がすぐそこに来ていることも見てきたと思う」

「そうだね。有難う。一つ質問良いかな?治療用アプリとヘルスケアアプリとの違いって何かな?」

佐藤からの突然の質問であったが、田中の会社でも以前から多くのアプリを開発しており、気になっていたポイントであった為、事前に調査済であった。

「佐藤の質問なんだが、実は俺も気になっていたポイントだったんだ。ヘルスケアアプリとの違いとしては、診断や治療等の『医行為』まで介入できるのが大きいと思う。一般的なヘルスケアアプリは、健康状態(症状や服薬など)の記録や、疾患などの情報提供に留まっているのに対して、治療用アプリは、例えば、『患者の記録などを用いた副作用などの診断』とそれに基づいた『副作用状態のアラート』まで介入できるのは大きな違いだと思うよ」

「なるほど、『医行為』か。しっかりとしたエビデンスをもつ医療機器として承認されているからこそ出来ることなんだね。」

国内外の動向は?

「ここまでで簡単に前回の振り返りを行ったから、次にこの2週間で行った、治療用アプリの国内外の動向に関する調査結果を共有するね。」

そういうと田中はホワイトボードに調査で明らかにしたいポイントを書き込んでいった。

「今回の調査では、治療用アプリの国内外の動向に関して、以下のポイントを明らかにしていきたいと思う」

●市場規模は?
●治療用アプリの開発領域は?
●パートナーシップの動向は?

「上記のポイントについて、調査した結果をホワイトボードに書き込んでいくから、気になった点などあったら、どんどん指摘してね」

そういうと田中は、この2週間で調べた結果についてホワイトボードに書き込んでいった。

「こんな感じかな。何か気になる点とかあったら遠慮なくいってね」

前回のデジタルヘルスに関する調査の際は、何をどの様に纏めるのか分からないと言っていた田中だったが、見違えるように成長した姿を見て佐藤は驚いていた。

「良いと思う。特に図表3の大手製薬会社とスタートアップのパートナーシップ動向は興味深いね。以前、誰かが未来のヘルスケアシステムでは、『①データとプラットフォームの構築②健康と幸福を促進する消費者中心の製品を他の企業と協力して開発すること、そして③物流や支払いを提供し、消費者に製品を迅速に届ける金融機関や仲介者』という3つの分野に焦点を当てた組織が勝者になるって言っていたけど、製薬会社とGAFA、スタートアップの協業がこの1枚で見て取れるね。GAFAの部分は、今後のテーマにするとして、今回はスタートアップについて、どこかの企業を掘り下げて見てみようか」

「因みにWelldocについては調べた?もし調べていなかったら、一緒にこの文献を見ていこう。」

そういうと佐藤は、ある文献を印刷し、田中に渡した。

「『Cluster-Randomized Trial of a Mobile Phone Personalized Behavioral Intervention for Blood Glucose Control』この文献を一緒に読み合わせをしていこう。WelldocのBlueStarという2型糖尿病の治療用アプリに関する文献でDiabetes Careにも掲載された有名な論文なんだけど、治療用アプリの実力が分かるので、是非一読してほしいと思う。少し時間を取るからちょっと読んでみて」

実力は?

「どう読めた?文献の中身に入る前に、BlueStarの概要について簡単にホワイトボードに記載するから見てみて。」

そういうと佐藤はホワイトボードに何やら簡単なポンチ絵を書き込んでいった。

「アプリを通じて、患者にとっては個別に分析された血糖値、糖尿病治療薬、生活習慣等に応じて自動的にリアルタイムで教育的・行動的なメッセージを受け取ることができること、また医療従事者にとっては、患者の血糖値、糖尿病治療薬の管理、生活習慣の改善、エビデンスに基づく治療法の選択肢などを纏めたレポートを来院前に受け取ることが出来、患者の状態を正しく理解することが出来るなどのメリットがあるというわけだね」

佐藤のポンチ絵のお蔭でザックリとではあるが、治療用アプリの製品自体の概要について理解することが出来た。

「ここまでは、製品自体の話で何となく治療にポジティブな影響を与えそうではあるけど、本当に治療効果が期待できるのか?という点についてしっかりと見る必要があるから、一緒に文献を確認していこう。田中の方から文献の内容について簡単に共有してもらっても良いかな?」

「了解。①目的②研究デザイン/方法③結果の3点について、ホワイトボードに纏めていくね」

「本研究は、標準的な糖尿病管理と比較して、モバイルアプリケーションによるコーチングと、患者/医療者のウェブポータルを追加する事で、2型糖尿病患者のHbA1cが低下するかどうか検証したものだね」

「主要評価項目は1年間のA1cの変化、副次評価項目は、患者が報告する糖尿病症状、糖尿病の苦痛、うつ病、その他の臨床値(血圧)および検査値(脂質)の変化を設定。因みに、対照群(通常ケア)に対し、3つの段階的治療群を設定しているんだけど、最も強力な治療群は、モバイルとウェブを利用した自己管理の為の患者コーチング支援と医療者の意思決定支援を実施しているね」

「さすが田中だね。MRとして日頃から文献を読んでいるだけあって、この短時間で文献の概要を的確に捉えているね。それで、結果は?」

「通常治療群で12か月のHbA1cの低下が0.7%であったのに対し、強化治療群で1.9%と有意に低下させているね。副次評価項目で設定した、患者が報告した糖尿病の苦痛、うつ病、糖尿病の症状、血圧と脂質の値については群間に有意な差は無かったね」

「HbA1c1.9%の低下って凄い結果だよね。昔DPP4阻害薬の情報提供も行っていたけど、その際、記憶では訴求していたたのはHbA1c1.2%程度の減少だったと思う。。。アプリでこんなに治療効果が認められるなんて…」

初めて治療用アプリの文献を読んだ田中MRであったが、予想以上の効果に驚きを隠せない様子だった。

「ここまで情報を纏めてくれて有難う。非常に有意義な会議だったと思う。田中も言っていたようにアプリでHbA1c1.9%の低下は本当に素晴らしいデータだと思う。糖尿病治療において、食事・運動療法を含む、日常生活の行動変容が如何に大事かということが推察される結果だったと思うよ。」

「でも、この結果は市販後のリアルワールドでも本当に再現できるかな?田中も知っていると思うけど、治験時のデータって、厳格な管理の元に行われており、限定された施設で行われるよね。それに対して市販後は、様々なタイプの施設、医師、また患者に対して行われるわけであって、治験時のデータが再現されるとは限らない。特にアプリは、薬剤と違い、服用するわけでも、体内に埋め込むわけでもない。継続してしっかりと使用されることが、本当に重要になってくる。継続使用するうえで、医師・患者サイドの意識の高低が治療結果に結びついてくることは容易に想像できるよね」

治療用アプリの予想以上の効果に対し、驚いたが、佐藤の冷静な意見を聞き、治療用アプリの実力についてもう少し、調査する必要があると感じた田中MRであった。

「了解。そうだね佐藤の言うように、治療用アプリの実力について、リアルワールドで同様の効果を再現するには?という観点でももう少し検討する必要があるね」

「その通りだと思うよ。正にこの点についてもう少し議論したいね。次回の打ち合わせまでに、『治療用アプリの現時点で見えてきた課題は?』について調査してきてくれないかな?日本では事例も限定的だから、海外の事例を元に調査することになると思うけどお願い出来るかな?」

「勿論。どこまで出来るか分からないけど頑張って見るよ」

海外の事例調査を自分で出来るのだろうかと、少し不安を感じる田中MRであったが、同時に、新しいことに取り組むことにワクワクする自分がいることを感じていた。また率直に未来の医療や営業・マーケティングについて想像しながら自分で、変化することを純粋に楽しんでいた。

おわりに

どうだったでしょうか。第三回となる今回は、治療用アプリとヘルスケアアプリとの違いに始まり、国内外の動向と、海外事例としてWelldocのBlueStarの論文を元に、治療用アプリの実力について考えてきました。

次回は、治療用アプリに関する調査の後半戦として、「治療用アプリの現時点で見えてきた課題とは?」について考えていきたいと思います。

⇒第四回:「治療用アプリの課題とMRの役割とは?」を読む

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