今回の記事はこんな人のために書いています
- 製薬・ヘルスケア業界で次世代の営業マーケティングモデル構築に悩むマーケティング責任者
- 製薬・ヘルスケア業界の現場で試行錯誤を繰り返すMR
今回の記事を読むと以下のことが分かります
- 製薬・ヘルスケア業界で求められる次世代営業マーケティングモデルの要件
- 製薬・ヘルスケア業界における先進事例
こんにちは、スターコネクトコンサルティングの水本です。
今回の記事は、製薬業界向けの営業マーケティングの業界専門誌のMonthlyミクスで2020年12月号に掲載した、製薬・ヘルスケア業界における次世代営業・マーケティングモデルの先進事例について記載した内容をご紹介したいと思います。
Monthlyミクス12月号でも公開していますので是非、ご興味ある方はご覧ください。
それでは以下にご紹介します。
はじめに
前回の連載第1回ではCOVID-19を契機に製薬・ヘルスケア業界の営業/マーケティング領域で注目を浴びている「次世代営業マーケティングモデル」について、他業界の事例として、“完全オンライン”で製品導入までを実現するハブスポットの営業・マーケティングモデルについて見てきた。しかし読者の皆様の中には「他業界だから成立したのではないか?」と疑問に思われる方も多いと思う。そこで第二回となる今回は、「本営業マーケティングモデルは製薬業界でも適用可能か?」という点について、医療・ヘルスケア領域の先進事例として、私が支援した、ヘルスケアスタートアップの営業マーケティングモデルの事例を紹介し、本モデルを製薬業界で適用するうえでの論点について考えていきたいと思う。
日本初の治療用アプリ
上市したCureApp
今回は具体例として「ソフトウェアで『治療』を再創造する」をミッションに2020年内第一弾となるニコチン依存症(禁煙)治療用アプリ上市したCureAppを取り上げたい。
最初に同社と出会った2018年当時は、「アプリで治療を行う時代がすぐそこに来ている」と聞き、正直半信半疑の部分が多かった。というのも当時から製薬業界でアプリは多数存在していたし、前職の外資系コンサルティング会社勤務時に製薬会社と多くのアプリによるビジネスを考えていたが、議論の結果行きつくところは、「どの様にマネタイズするのか?」という部分であった。また、「アプリが“薬剤”と同程度の治療効果を発揮する」ということは正直なところ、イメージが出来なかった。
しかし、同社のニコチン依存症(禁煙)治療用アプリは、医療の本丸である「保険適用」を目指しており、かつその為に必要な「エビデンス」も既に構築済であった。2014年の薬事法改正後、短期間の間にPh3の治験のエビデンスを構築し、既に高血圧、NASHにおいても治療用アプリを開発中というスピード感にも驚いたのを今でも明確に覚えている。
営業・マーケティング領域でもデジタルによる革新を起こす
上記の様に治療用アプリという新しい概念を医療現場に取り入れ、医療現場に革新を起こしているCureAppだが、営業・マーケティングの分野でもデジタルによる革新を起こすことを目指している。
2018年当時、「非効率(エンドユーザーまで多くのステークホルダーが関与)かつアナログ(人海戦術中心)」な営業・マーケティング分野で「シンプルかつ高効率な新しいモデルを構築し、営業・マーケティング領域でもデジタルによる革新を起こす」というCOOのビジョンを聞き、「実際に医療業界でやろうとしている企業が本当にあるのか」と衝撃を受けたのを今でも鮮明に覚えている。
というのも著者自身がMRとして現場で問題意識を感じ、同様の営業モデルを何度か製薬会社の方と議論する事もあったが、当時は「総論賛成各論反対」状態だったからだ。当時からデジタル化は叫ばれていたが、実際には多くのステークホルダーが関与し、かつ対面営業が中心の業界において、各社従来の営業から大きく体制をかえるまでには至っていなかった。
CureAppが実現しようとする「シンプルかつ高効率な新しい営業・マーケティングモデル」は、流通構造をシンプルにすることに加え、少数精鋭の高効率な営業・マーケティング体制を取ることにより、医療経済性が高い製品の流通・提供を可能にしている。特に「少数精鋭の高効率な営業・マーケティング体制」を実現する為に、徹底的にデジタルを活用し、「完全オンラインの営業・マーケティング体制」による新製品上市を予定していることは注目に値する。
ただ一方で私自身、「少数精鋭の完全オンライン営業・マーケティング体制」の構想自体には、賛成だったが、コロナ以前の2018年当時では、新薬を完全オンラインで売り切るモデルは時期尚早であるとの意識も抜け切れていなかった。5年、10年のスパンでは業界の先進モデルとして考えられる様になるかもしれないが、顧客である医療従事者がオンライン面談を含めたデジタルツール活用に心理的なハードルを抱えた状態では、一般化するのは難しいのではないかと感じていた。また、禁煙領域という開業医主体の市場において新薬の普及をオンラインのみで行うには、大きなハードルが存在するのではと心の底では思っていた。
しかし、そんな課題感も理解したうえで、「ではどの制約条件をクリアすれば実現できるのか?」という意識で実行に落とし込んでいく姿は、圧巻だった。
では、ここでCureAppの「完全オンライン営業・マーケティング体制」とはどの様なものかについて見ていきたいと思う。
「高い専門性」と「高効率・少数精鋭」の次世代・営業マーケティングモデルを構築
CureAppの営業・マーケティングモデルについて簡単に示したのが図2だ。第一回で他業界の先進事例としてハブスポットの事例を共有したが、ソフトウェア業界で近年一般化され始めた「The Model」という営業プロセスをベースに、製薬業界で求められるプロセスとして再構築している。ここでは、詳細な業務プロセスの話はしないが、本プロセスのキーワードである1.「高い専門性」と2.「高効率・少数精鋭」について見ていきたいと思う。
カスタマーサクセスの新設により、高い専門性を発揮
第一に、「高い専門性」であるが、本モデルは従来、1人のMRが行っていた業務を「インサイドセールス」、「セールス」、「カスタマーサクセス」の3つに分けることにより実現している。これまでのMRは、自身の担当するエリアに対して、営業目標を持ち、アポ取得~製品説明~製品導入~フォローまでを全て1人の担当者が行っていた。
しかし、短期に売上をあげるハンター型のMRと、コツコツと医師の元に役立つ情報を提供し、一見地味だが長期的な信頼関係を元に、売上を右肩上がりに挙げるMRに求められる資質はそもそも違うと思う。私はMR時代どちらかというと地味で、クロージングが得意だったかというとそうではない方の部類の人間だったが、当時から医師の専門分野に関する、最新情報の勉強・準備を行ったうえで面談を行うことには拘っていた。ただ一方で、クロージングが得意で短期に売上を向上するのが得意なMRを見ると「自分は向いていないのかな…」と思ったことも多々あった。
著者自身の体験をベースに考えても、売上を効率的に挙げることがミッションとなる「セールス」と、医療従事者と長期に渡る信頼関係を構築する「カスタマーサクセス」部分で分けて考えるのは理にかなっていると思う。「カスタマーサクセス」が「売上」を全く考慮しないというわけではないが、目標を「長期にわたる関係構築、ブランド価値最大化」と置くのであれば、そのために必要な活動も異なってくると思う。
特にCureAppの治療用アプリの様にデジタルデバイスの普及により今までアクセス出来なかった、患者データの収集が進むにつれ、製薬会社のMRには、単なる自社製品の普及という「モノ売り」の発想から、モノを含めた「ソリューション提供」という概念が一般的になると思う。その際、このカスタマーサクセスの担当者が、1人の患者さんの病気をどの様に自社製品を通じて解決していくかを考え、また、場合によっては自社製品以外の選択肢も含めて医師と高いレベルで議論することが求められる世界がすぐそこに迫っている。
少数精鋭で営業・マーケティングを「完全オンライン」により実現
次に「高効率・少数精鋭」であるが、CureAppは「完全オンライン」で「アポ取得~製品説明~製品導入~フォロー」を行うため、競合と比較しても少数精鋭での上市を予定している。
冒頭でも述べたが、営業・マーケティング組織立ち上げ時は、まだコロナ前で対面営業が中心の時期だった。その中で製薬会社を経験する身としては、どうしても「オンライン主体」であっても「一定数は対面営業」が重要との考えが心の底にはあった。ただ、当時から医師にヒアリングを行っていると「必ずしも対面でなくても、ポイントさえ押さえればオンラインでも可能なのではないか?」と考えるようになった。
例えば完全オンラインで新薬導入を実現する上で一つの論点となるのが「製品導入期」と言われている。「製品導入期」は、一般的に顧客側も製品に対する多くの情報を求めており、この時期に如何にして丁寧な情報提供を行い、自社製品の有用性・使いやすさを理解してもらうことがその後の処方増につながるといわれている。この点は対面での情報提供でも同様の感覚をお持ちの方は多いのではないだろうか。「製品導入期間(3~6ヵ月)」とその間で「実施するべき事項」を明確に定義・管理し、通常よりも丁寧にフォローを行っていくことが重要となる。
上記はほんの一例であるが、オンライン面談に対する顧客の心理的なハードルが下がったコロナ後の現在において、完全オンライン営業は、今後益々増えていくのではないかと推察する。
次世代営業マーケティングモデル「5+1成功の要諦」とは?
これまで、他業界の事例、医療ヘルスケア領域における次世代営業・マーケティングモデルについて考えてきた。簡単に振り返ると、次世代の営業・マーケティングモデルは、従来営業が一人で行っていたプロセスを「インサイドセールス」「セールス」「カスタマーサクセス」で分業することにより、各プロセスにおける専門性を最大化したうえで、「完全オンライン」で対応することにより、効率化も同時に実現する仕組みであった。
このプロセスを現在の製薬会社のプロセスに置き変えて考えると(図4)、次世代営業マーケティングモデル立上げに際し、大きく以下5つについて考える必要がある。
1. インバウンドマーケティング組織への進化
2. eMR部隊の立上げ
3. セールスプロセスの再構築
4. カスタマーサクセス組織の立上げ
5. 部門間協業プロセスを支えるインフラ整備(MA/SFA/CRM)
また、上記5つは次世代営業マーケティングモデルにおける、「ハコ作り」という部分が大きいが、一番重要なのはやはり「ヒト」つまり、「MR」であり、最後の一つとして、「次世代MRの定義・育成」を定義したいと思う。「5+1成功の要諦」として、「+1」にしたのは最後の「次世代MRの定義・育成」が最も重要であるという著者の思いからである。
第一回、第二回を通じ、多くの皆様が疑問に思っていた「完全オンラインで採用まで実現できるのであろうか?」「他業界だから成立したのではないか?」といった疑問にお答えすることが出来ただろうか?
勿論、各社の現状の課題、将来の目標が異なる中、一律なモデルをあてはめることは難しいだろう。この点についてもどこかの機会で考え方を提示したいと思う。
次回は、この「5+1成功の要諦」のうちMRに最も関わる部分である「eMR部隊の立上げ」「セールスプロセスの再構築」「カスタマーサクセス組織の立上げ」という観点から、製薬業界における次世代営業・マーケモデルを考えていきたいと思う。
⇒第三回:「”5+1成功の要諦”を踏まえて」を読む