今回の記事はこんな人のために書いています
- デジタルヘルスが営業・マーケティングに与える影響を理解し、戦略立案に役立てたいと考える営業・マーケティング責任者
- デジタルトランスフォーメーションを推進することになったが、何をすればよいか分からない営業・マーケティング担当者
- 次世代MRに求められる役割・業務を理解し、成長したいと考える現場MR
今回の記事を読むと以下のことが分かります
- GAFAのヘルスケアにおける取組
- MRの役割・活用
こんにちは、スターコネクトコンサルティングの水本です。
今回の記事は、製薬業界向けの営業マーケティングの業界専門誌のMonthlyミクスで2021年9月号に掲載した、「GAFAの動向(Apple, Googleの事例)」について記載した内容をご紹介したいと思います。
Monthlyミクス9月号でも公開していますので是非、ご興味ある方はご覧ください!
それでは以下にご紹介します!
はじめに
前回は、国内外のオンライン診療メーカーの動向を確認し、各社が「ヘルスケア~医療」にまたがるバリューチェーンの構築を目指し、提携を行っている様子を見てきました。特に海外事例としてオンライン診療メーカーのTeladocとLivongoの事例では、「診療⇔在宅」がシームレスに連携され、取得した「患者データ」を元に、患者個々の状況に即したサポートの可能性について考えてきました。今回は、近年ヘルスケア領域でプレゼンスを拡大しつつある「GAFAの動向」として、Google, Appleの動きをみつつ、両社が「患者データ」をどの様に活用していこうとしているのかについて、2019年にThe New England Journal of Medicineに掲載された「Apple Heart Study」を確認しながら一緒に考えていきたいと思います。
それでは早速今回も、ヘルスケアスタートアップで働く佐藤と、製薬会社でMRをする田中との対話を通じて、本テーマについて考えていきたいと思います。
前回、海外のオンライン診療メーカーの事例を調査し、「診療⇔在宅」といった「“医療”領域の患者データの活用」に興味を持った田中であったが、「“ヘルスケア”領域の患者データの活用」についても同様に気になっていた…。
Google、Appleの狙いは?
「佐藤、おはよう。今までデジタルヘルスについて、『オンライン診療や治療用アプリ』といったテクノロジーを中心に、特に『医療領域』について見てきたけど、今日は『ヘルスケア領域』について見ていきたいと思っているんだ。」
「いいね。確かに昔から『ヘルスケア領域』は隣接している領域として注目されていたけど、マネタイズの難しさなどの理由で、各社攻めあぐねていた領域だよね。今日はどんな切り口で考えていくのかな?」
回を重ねるごとに、田中MRが成長していく姿に驚くとともに、最新のテクノロジーを中心に、少し未来の姿を考えることにワクワクする佐藤であった。
「今回は『GAFAの動向』として、『Google, Appleが、ヘルスケア領域において、患者データをどの様に活用していこうとしているのか?』について見ていきたいと思う。」
「まずはこちらを見てもらいたい。前回は、TeladcoとLivongoの例を元に、「診療⇔在宅」のバリューチェーンをカバーし、取得した患者データをAIを用いて解析することにより、患者個々に最適な情報提供を行っている様子を見てきたと思う。近年、Google, Appeは自前の「顧客接点」と「大量のデータ」を活用して、ヘルスケア領域でのプレゼンスを拡大しているんだ。」
「iphoneやApple Watchは日本でも広く普及しているし、顧客接点という意味ではAppleは強いよね。AppleやGoogleの事だから、「ヘルスケア領域」のみならず「医療領域」の方にも今後は広げていくと思うんだけど、具体的に教えてもらうことは出来るかな?Apple Watchやiphoneで入手した患者データについて、具体的にどの様に活用しようとしているのか、気になっていたんだ」
「Apple Watchやiphoneで入手した患者データの活用方法については、ある論文を見つけたから、それを元に議論させてほしい」
患者データの活用方法は?
「今回紹介するのは、2019年New England Journal of Medicineに掲載された、『Large-Scale Assessment of a Smartwatch to Identify Atrial Fibrillation』。『Apple Heart Study』について一緒に見ていきたいと思う」
「Appleは、スタンフォード大学と協業し、参加者『40万人』という史上最大規模の心臓疾患の調査研究である『Apple Heart Study』を実施し、Apple Watchにより、常時心拍数を記録することにより、心房細動が早期発見可能か否か本試験を通じ、検証したんだ。」
「えっ?『40万人?』桁間違えていない?数万人でもかなり大規模な臨床研究だよね」
「40万人」という数を聞き、驚きを隠せない佐藤であった。
「いや、俺も最初聞いた時は、桁を間違えているんじゃないかなと感じたんだけど、心房細動がないと自己申告をした『419,297人』を対象にして行われた試験なんだ。通常の大規模臨床試験では、患者への説明、同意取得を含む、リクルーティングのプロセスは、医療機関で行われると思うんだけど、今回は全てiphoneアプリ上で行われたんだ。一度も医療機関に出向くことなく患者登録を行うことが出来るのは、強固な顧客基盤を持つAppleだから出来たと言えるよね。」
「Apple Heart Studyは、今後の大規模臨床試験の患者リクルーティングの方法について、パラダイムシフトを起こしてしまうかもしれないね。内容についても詳しく教えてくれるかな」
「了解。まずはこちらを見てほしい。」
そういうと、田中MRはいつものようにホワイトボードにポンチ絵を書いていった。
「参加者41万9297人の内、心房細動の可能性ありとアラートがだされた2161人(0.52%)には、オンライン診療が行われ、心電図計が郵送された。心電図計を返却したのは450人で、内34%が心電図で心房細動が診断され、その84%の参加者は、心電図を装着している最中にApple Watchでもアラートが鳴った。つまり条件付きではあるけど、Apple Watchは心電図に対して約80%の精度で心房細動を特定できたんだ。」
「普段からApple Watchを付けて心拍数を記録するだけで、心房細動の兆候を早期発見できるのは素晴らしいね。普段から心拍数等のヘルスケアデータに興味を持ち、ユーザー自身が変化に気付くことで、予防的な対応も可能になるし、行動変容に繋がりそうだよね」
Apple Watchを付けるだけで、病気の兆候が明らかになり、必要に応じてオンライン診療に繋がる流れを見て、ヘルスケアから医療方向への未来像を感じる佐藤であった。
「因みに日本でも、2021年1月に『家庭用心電計プログラム及び、家庭用心拍数モニタリングプログラムの適正使用について』厚生労働省が通知を出していたと思うけど、この流れの中での話なのかな。」
「流石、佐藤だね。『Apple Heart Study』では、『ウェアラブルデバイスが常時心拍数を記録してくれるお蔭で、病気が早期発見出来る可能性が示唆された』のに対して、2021年2月には慶応大学病院が、『Apple Watch Heart Study』の開始を発表したんだけど、この試験では『異常のある心電図を見逃さずに的確に記録できるようにするには、いつ測ればよいのか?を明らかにする』ことを目的としているんだ。」
「田中のお蔭で大分、ヘルスケア領域における患者データの活用方法について、イメージを持つことが出来たよ。因みにこの流れはGoogleでもそうなのかな?」
「そうだね。ヘルスケアデータを入手する為のウェアラブルデバイスという観点では、Apple Watchを持つ、Appleが優位だったんだけど、Googleも負けじと、2019年にfitbitを買収して、ヘルスケアデータ入手の仕組みを構築しているんだ。また、ヘルスケアデータだけでなく、医療データという観点でも、米国で約2,600の病院やクリニックをグループ傘下に持つ、Ascensionと提携し、数千万人の患者データへのアクセスが可能になったんだ。データプライバシーの問題など乗り越えるべき課題はあるものの、Googleも着々とヘルスケア・医療データを入手する仕組みを構築し、データビジネスの基盤を作り上げていっているという感じだね」
「GoogleもAppleに負けじと各種ヘルスケア・医療データの入手に動いているというわけだね。今回のケースに限らずだけど、ヘルスケア~医療領域には、近年様々なプレーヤーが参入してきており、各社が様々なアプローチでヘルスケアデータ・医療データを活用し、患者に対してソリューションを提供しようとしているね。特定の会社・テクノロジーのみに注目していると、全体の流れを見誤ってしまうね。そういう意味では、テクノロジー単体で見るのではなく、掛け合わせで見るという視点、またバリューチェーン全体で理解する必要が今まで以上にありそうだね。」
今までも、各論に入り過ぎず、全体の流れの中で、テクノロジーを見るように意識をしていた佐藤であったが、田中MRの前回までの「治療用アプリ」、「オンライン診療メーカーの動向」、また、今回の「Apple, Googleの事例」を聞き、改めて重要性を認識したのであった。
MR活動にどの様に生かせるか?
「ここまで田中にApple, Googleの事例を通じて、『ヘルスケア領域』から『医療領域』に向けた患者情報の活用方法について見てきたと思うんだけど、何か現場で生かせる視点などはあるかな?」
「そうだね。ヘルスケア領域の患者データの具体的な活用方法については、今後更に考えていく必要があると思うけど、今回の調査で学んだのは、具体的な活用方法というよりは『視点』かな」
「具体的に教えてくれるかな?」
「今まで『治療用アプリ』、『オンライン診療』といった『医療』側のテクノロジーでも、『診療~在宅~フォロー』まで各プロセスの垣根がなくなっていると感じた。また今回の『Apple, Google』といった『ヘルスケア側』のテクノロジーでも、同様に『ヘルスケア~医療』の垣根が既になくなりつつあることを学んだ。」
「今までは、製薬業界は製薬会社、病院など限られたプレーヤーの中でビジネスを行い、また参入障壁も高い業界だったため、外部のプレーヤーが参入することも少なかった。MRとしても、製薬・医療業界に特殊な知識・スキルを深堀って、専門性を高め、業界を深く理解することが求められてきたと思うけど、今後はそれだけではなく、周辺領域のプレーヤーやテクノロジーについても幅広に理解していく力が求められてくると思う。」
「特にMRはDr同士を繋げるコミュニティ形成力は、多きな強みだと思うけど、多くのプレーヤーが参入する中、今後のMRにはDr同士のみならず多くのプレーヤーを繋げる必要性が出てくると思うし、それが出来るMRは本当に強いと思う。そのためには、しっかりと周辺領域のパートナーが何を課題にしているのか、何を求めているのかについて理解していないと、人同士を繋げることは出来ないよね」
「なるほどな。確かに既に医療・ヘルスケアの垣根はなくなっている中、今後のMRに求められるのは、製薬・医療業界への深い理解のみならず、周辺領域のパートナーの理解も求められるようになるよね。田中が話したように、近未来のMRは、デジタルを活用して、『地理的・時間的制限』を取り払って、コミュニティを形成できる。更に『業界の壁』も取り払ったコミュニティ形成まで関与できたら高い価値を提供できる様になるのは間違いないね」
「今回も、あっという間だったけ本当に有意義な時間を過ごすことが出来たよ。今回はGAFAの動向として、Apple, Googleの事例を話してもらったから、是非Amazonについても調べてきてほしいな。」
「了解。近年Amazonもヘルスケア領域に注力しており、その取り組みから多くの事を学ぶことが出来ると思う。次回も楽しみにしておいて!」
おわりに
今回は「GAFAの動向」の前半戦として、Apple, Googleの事例を元に、ヘルスケア領域における患者データの活用方法についてApple Heart Studyを通じて考えてきました。今回の事例に限らず、近年ヘルスケア・医療領域に多くのプレーヤーが参入し、各領域間の垣根が急速になくなってきていることをご理解頂けたのではないでしょうか?
既に製薬業界でも、スタートアップと大手企業の連携などの取り組みが活発化してきていますが、現場でもこれらの流れを随時チェックし、今後どの様な方向性に進むのかを予想したうえで、自身に必要なスキル・知識を身に付けていくという能力は、今まで以上に求められると思います。
⇒第八回:「Amazonの狙いと将来のMR活動への示唆」を読む