記事の概要

今回の記事はこんな人のために書いています

  • 製薬・ヘルスケア業界で次世代の営業マーケティングモデル構築に悩むマーケティング責任者
  • 製薬・ヘルスケア業界の現場で試行錯誤を繰り返すMR

今回の記事を読むと以下のことが分かります

  • 製薬・ヘルスケア業界で求められる次世代営業マーケティングモデルの要件
  • 製薬・ヘルスケア業界における次世代営業マーケティングモデル立ち上げのポイント

こんにちは、スターコネクトコンサルティングの水本です。

今回の記事は、製薬業界向けの営業マーケティングの業界専門誌のMonthlyミクス2020年1月号に掲載した、製薬・ヘルスケア業界における次世代営業・マーケティング組織立ち上げのポイントについて記載した内容をご紹介したいと思います。

Monthlyミクス1月号でも公開していますので是非、ご興味ある方はご覧ください!

それでは以下にご紹介します!

はじめに

第一回第二回とコロナ後に求められる次世代・営業マーケティングモデルとして、「他業界の事例」とヘルスケア業界における先進事例として「CureAppの営業・マーケティングモデル」について見てきました。

ここまでの会で「次世代営業・マーケティングモデルとは何か?」「製薬業界でも適用可能なモデルなのか?」という疑問に対して具体的な事例を元に答えてきました。

第三回目となる今回は、「次世代営業マーケティングモデルの立上げを行ううえでのポイントは何か?」という点について、「eMR部隊の立上げ」「カスタマーサクセス組織の立上げ」という観点から、製薬業界における次世代営業・マーケティングモデルを考えていきたいと思います。

次世代営業・マーケティングモデルとは「効率性」と「専門性」を兼ね備えた職種間の“共業”プロセス

これまでの連載を通じ、他業界、ヘルスケア業界の先進事例として「ハブスポット」「ヘルスケアスタートアップ」の営業・マーケティングモデルについて考えてきました。

簡単に振り返ると、次世代営業・マーケティングモデルは、従来MRが一人で行っていたプロセスを「インサイドセールス」と「カスタマーサクセス」で分業することにより、各プロセスにおける専門性を最大化したうえで「インサイドセールス」により対応すべき顧客をふるいにかけ、効率化も同時に実現する仕組みでした。

このプロセスを現在の製薬会社のプロセスに置き換えて考えると、次世代営業・マーケティングモデル立上げに際し、大きく以下5つについて考える必要があります。

1. インバウンドマーケティング組織への進化
2. eMR部隊の立上げ
3. セールスプロセスの再構築
4. カスタマーサクセス組織の立上げ
5. 部門間協業プロセスを支えるインフラ整備

また、上記5つは組織の「ハコ作り」であり、6つ目として、「次世代MRの定義・育成」が最も重要であり、この点については第四回で述べたいと思います。今回は、「eMR部隊の立上げ」「カスタマーサクセス組織の立上げ」について考えていきたいと思います。

提言①:「面談機会の創出」
「有望医師の育成・管理」を行うeMR部隊を構築せよ

年、製薬業界でもMR中心の営業から医療機関に出向くことなく、Web面談などのリモートで面談を行う、eMRが増加していますが、しばしば「テレアポ部隊」と「eMR」を混同して議論されます。テレアポ部隊の役割が、「面談機会を創出する」ことにあるのに対し、eMRは1.「面談機会の創出」に加え、2.「有望医師の管理育成」までが入ることが違いとして挙げられます。

まず1.「面談機会の創出」ですが、従来はMRが担当先をまず訪問し、顧客の反応を確認したうえで、個別に詳細な情報提供を行っていたと思います。しかしこの方法では、頻回訪問が前提になり、また昨今のCOVID-19の環境下において、従来の様な対面による頻回な情報提供が難しくなった今では、機能しづらくなってきたと思います。

そこでMRが手あたり次第顧客を訪問し、有望医師を発掘するのではなく、その前のプロセスとしてeMRがweb上のオンライン行動履歴を元に、「有望と思われる医師」にweb面談を依頼し、興味関心を確認した上で、「有望な医師」にアポイントを取得し、担当MRに連携します。MRが訪問する前に、eMRが優先順位を付けることにより、MRの面会の精度は高まると同時に、MRが本来やるべき面談準備・提案・クロージング等の業務に集中することが出来るようになり、質の向上も期待できます。

ただ、ここまでの業務であれば、既にeMRとMR連携を行っている企業も多いのではないでしょうか。またテレアポ部隊と何ら変わりないと思われる方も多いと思います。

eMRの重要な役割は2.「有望医師の育成・管理」です。

「有望医師を育成」するには、医師の「育成度合い」が可視化されている必要があります。

この「育成度合い」については、MAにおける「リードスコアリング」にて定義することが出来ます。主に医師のスコアリングは、病院規模、役職などの属性情報による1.「属性スコア」と、ウェブサイトへのアクセス、コンテンツのダウンロードなどの行動情報による2.「行動スコア」に加え、製品採用・処方につながる重要アクションなどの3.「キーアクションスコア」から定義されることが多いです。

一定の基準により医師の状態をスコアリングすることにより、web面談フォローを行うべき医師の優先順位を付けることが出来るようになり、eMRが全ての医師に面談依頼を行うというような事態も割けることが出来ます。事実、eMRの課題の一つとして「面談取得率の向上」があると思いますが、スコアの高い医師、つまり該当製品の情報に興味がある可能性の高い医師に対してWeb面談を依頼する為、面談率の向上も期待されます。

スコアが低い内は、直接面談を行うのではなく、eメール等でコンテンツを配信したり、web講演会の案内を行うなどし、育成していく考え方が非常に大事になってきます。但し、このスコアリング基準については絶対の正解はないため、自社の状況に即した形で定義し、運用する中で適宜調整していくことが非常に大事です。

次に「有望医師を管理」する為には、この「スコアリング」に加え、「ステージ管理」することが非常に大事になってきます。一般的にMRは多くても「100名」程度の医師を担当していると思いますが、組織規模にもよるが、eMRは「500-1000名程度」の医師を担当する体制になることが多いと思います。

このようにeMRは多数の医師を「管理」することが求められるため、現在どの様なアクションを行って、どの段階にいるのかということを「見える化」していなければとても管理することができなくなります。

ステージの定義と移行判定基準を以下に記載します。

以上、eMRの役割として「面談機会の創出並びに有望医師の育成・管理」を定義した上で、それらを支える仕組みとして、「スコアリング」と「ステージ管理」の重要性について考えてきました。

提言②:医師を成功に導く
担当者として“伴走”するカスタマーサクセスMR組織を立上げよ

次に、「カスタマーサクセスMR」について考えてみたいと思います。

そもそも「カスタマーサクセスMR」とは「MR」と何が違うのでしょうか?

担当するプロセスを見てみると、MRが「採用前」までのプロセスを担当するのに対し、カスタマーサクセスMRは「採用後」のプロセスを担当します。基本的にはMRもカスタマーサクセスMRも営業であると定義するのであれば、勿論営業目標自体は持つことになると思いますが、単なる「処方数増加、複数製品採用により売上を最大化されるための担当者」ではなく、「医師を成功に導く担当者」であることが大きな違いです。

カスタマーサクセスMRは、単に製品採用後も顧客を「フォロー」するのではなく、1.「医師の成功というステージを定義・管理」し、同時に2.「製品・会社に対する満足度を把握」し、医師の診療における成功へと導いていく必要があります。

第一に1.「医師の成功というステージを定義・管理」ですが、一例として、「製品採用期間で医師ステージを管理する方法」についてみてみたいと思います。

ここで重要になってくるのは、各ステージ毎に「適した活動」と「コンテンツ・施策」について、以下の様にセットで考えることです。

1.  導入期:製品価値と処方するうえで重要な情報(特徴、副作用、注意事項など)を伝達
2.  処方前期:処方対象患者を拡大するためのwebinar受講促進、他処方医師の事例紹介
3.  処方中期:オンライン・オフラインコミュニティへの参加促進
4.  処方後期:各種講演会への登壇依頼

特に、製品導入期は、医師が処方を行う上で最も製品情報が必要な時期で、処方に対するマインドも上がっている時期ですので、その後の製品・会社に対する満足度において重要な期間となります。

この期間のポイントとしては、「期間」と「成功の定義」を決めることです。PDCAを回すうえで、このプロセス終了時に「当該期間中に何人の医師が導入期で成功に至ったか?」を計測する事が重要になってきます。PDCAを回すうえで、「期間」と「成功の定義」について決めることが必要になってきますが、これらは、製品により異なってくる為、自社の状況に併せて考えるのが良いと思います。

次に2.「製品・会社に対する満足度を把握」ですが、前述した1.「医師の成功というステージの定義・管理」では、「導入期間」で管理している為、仮に製品や、担当者の対応に不満を持っていたとしても、先にフェーズが進んでいってしまい、気付いた時にはフェーズは進んでいるものの処方は全く行われていないという状況に陥ってしまう可能性があります。そこで、その弱点をカバーするために、「ヘルススコア」という概念を取り入れると良いです。「ヘルススコア」は例えば以下の項目などを総合的に判断します。

  1. 顧客との関係
  2. 製品の処方量
  3. プログラム活用度

例えば「顧客との関係」で設定する項目としては、

  • 診療部長とのリレーション
  • 処方医とのリレーション
  • 自社コンテンツ掲載 等 

などがあげられます。それぞれの項目に対して、評価のうえ、項目ごと、全体で顧客のヘルスチェックを行うと良いと思います。

ここまで他業界の事例を参考に、「効率性」と「専門性」を両立する営業・マーケティングモデルを実現する為にはどの様にすればよいかについて考えてきました。この営業マーケティングモデルをベースに3パターンに分類したものが以下になります。

プロセスのどの部分を、1.「オンラインで対応すべきか否か」、2.「外部リソースを活用すべきか否か」の観点で、3つに分類しています。

連載の第一回第二回で示したパターン③については、完全オンラインでマーケティング~eMR~MR~Cサクセスプロセスを行う形であり、効率性を最大限に高めることが出来ます。また必要に応じて、eMR、MRの部分は外部リソース活用も検討します。

本パターンについては、例えば希少疾患治療薬を販売するメーカー等、対象患者・医師が限定的であるが全国に散らばっている場合などに有効に機能するモデルだと思います。完全オンラインで対応することにより、少人数で全国をカバーすることもできますし、希少疾患でアンメットメディカルニーズの高い製品の場合、顧客側も情報ニーズが高いことが多いため、プッシュ型ではなくインバウンド型の情報提供でも十分に成立するからです。

但し、カスタマーサクセスに関しては顧客満足度に直結する部分である為、内製化するべきだと思います。

次にパターン①、②ですが、両パターンの違いとしては、「採用までをオンラインでやるか否か」ですが、ここは自社の現在の体制、製品ライフサイクルを勘案して選択すればよいと思います。

例えば、製品ライフサイクルがある程度成熟期に入っている製品なのであれば、既にターゲット施設には導入していることが多いと思うので、オンラインMRで全国をカバーしつつ、導入後に現地のカスタマーサクセスMRに連携するという方法も考えられます。

今回は、一つの例として3つのパターンに分類して自社に適応する際の大きな方向性について考えましたが、重要なのは自社の現状、課題、目指す組織を明確にしたうえで、最適な営業・マーケティングモデルを考えることだと思います。

本モデルはあくまで仮説であり、一つのたたき台として、自社の次世代の営業・マーケティングモデルのあり方を考えて頂ければと思います。

成功の要諦「+1」とは?

今回は、前回までの事例を踏まえ、「次世代営業・マーケティングモデルの立ち上げを行う上でのポイントは何か?」について「eMR部隊の立上げ」「カスタマーサクセス組織の立上げ」について考えてききました。

これまで次世代営業マーケティングモデルについて、「“効率性”と“専門性”を兼ね備えた、職種間“共業”プロセス」と定義してきました。

また一般的にDxでは「効率性」などに焦点を充てられる部分が多いですが、本質はそこではないと思います。やはり主役はヒトの部分、つまり「次世代MRの定義/育成」だと思います。

次回は、次世代営業マーケティングモデルの総括として、「次世代に求められるMRとは?」について考えていきたいと思います。

⇒第四回:「次世代に求められるMRとは?」を読む

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