記事の概要

今回の記事はこんな人のために書いています

  • 製薬・ヘルスケア業界で次世代の営業マーケティングモデル構築に悩むマーケティング責任者
  • 製薬・ヘルスケア業界の現場で試行錯誤を繰り返すMR

今回の記事を読むと以下のことが分かります

  • 20XX年の診療現場とは?
  • 次世代に求められるMRとは?

こんにちは、スターコネクトコンサルティングの水本です。

今回の記事は、製薬業界向けの営業マーケティングの業界専門誌のMonthlyミクス2021年2月号に掲載した、「次世代に求められるMRとは?」について記載した内容をご紹介したいと思います。

Monthlyミクス2月号でも公開していますので是非、ご興味ある方はご覧ください!

それでは以下にご紹介します!

はじめに

2020年11月号よりスタートさせた本連載も今回が最終回となります。第三回では「“5+1成功の要諦”を踏まえて」ということで「次世代営業マーケティングモデル立上げの方法は?」という疑問に答えてきました。最終回となる第四回では、成功の要諦「+1」であり、次世代営業マーケティングモデルの主役となる「次世代に求められるMRとは?」について考えていきたいと思います。今回の内容は、近未来の医療、MR活動について著者の考えが多分に入っている為、現実とそぐわない部分も多分に存在することを、ご了承ください。

成功の要諦「+1」とは「ヒューマントランスフォーメーション」

「この先、本当にこのままで良いのだろうか?」――。連載第一回の冒頭にも記載した通り、私が現場でMRとして活動していた2010年当時、医局に戻る医師を待つ病院の廊下で時折頭に浮かんでいた疑問です。あれから10年、COVID-19により、各社は本格的に製薬営業の「デジタルトランスフォーメーション」に取り組み様になりました。では、「デジタルトランスフォーメーション」とは一体何をすることが正解なのでしょうか?システムを導入して、デジタル化・効率化を目指すことが正解なのでしょうか?

COVID-19により、製薬各社はデジタル化に注力しており、3rd partyメディアのデジタルツール導入を含め、各社こぞってデジタルツール導入を行っています。確かに従来の製薬営業は、対面中心でデジタル化は他業界に比べても比較的緩やかなスピードであり、今後積極的にデジタルツールをMRは活用し、医師との接点機会を持つべきであると思います。

しかし、私個人の思いとしては、昨今の次世代営業マーケティングモデル構築はあたかも、「システム導入を通じたデジタル化・効率化」が主要論点になっているように感じます。約10年前営業現場にいた時にもSFA/CRMの導入がブームであったのを記憶していますが、当時現場にいた人間として「本当にこのままで良いのだろうか?」と考えていた時とあまり変わらない気もします。

次世代営業営業マーケティングモデルとは、単なるシステム・ツールの導入によるデジタル化ではなく、MRの今後の役割を定義した上で、それを実現するために必要な組織・システムを考えるべきではないかと思っています。中心は、組織・システムではなく、「ヒト、つまりMR自身」です。次世代営業マーケティングモデルの本質は、“デジタル”トランスフォーメーションではなく、“ヒューマン”トランスフォーメーションだと思います。

では、「次世代に求められるMR」とは、一体何なのでしょうか?

「オンライン診療・服薬指導」×「治療用アプリ・デバイス」×「治療支援プログラム」で自宅に居ながらにして本格的な治療を受けられる時代に

「次世代に求められるMRとは?」を考えるうえで外せないキーワードがあります。「ペイシェントセントリック」、言わば「患者中心の医療」です。この言葉が言われるようになり、久しいですが、いよいよ製薬企業/MRにとって外せないキーワードとなってきました。

「次世代に求められるMRとは?」を考えるうえで、近未来の「患者中心の医療とは具体的にどの様なものなのか?」について考えたたうえで、「MRは具体的にどの部分で貢献できるのか?」について考えていきたいと思います。

「患者中心の医療とは具体的にどの様なものなのか?」を明らかにするうえで、今から数年後を想定して、「20XX年における、田中さんの糖尿病治療」という架空のストーリーを考えてみたいと思います。

20XX年における、田中さんの糖尿病治療

【治療前】
 20XX年、会社員の田中さん(45才)は、妻(44才)、娘(17才)息子(15才)の一家の大黒柱として、仕事で忙しい毎日を過ごしていました。付き合いも多く、自身の健康をあまり顧みすこともなく、不規則な生活・食事を改善することが出来ずにいました。
 ある時、会社で受けた健康診断でHbA1c7.5%と血糖値が高いと指摘され受診を勧められることになりました。

【初回診察】
 忙しい日々を送っていたため、仕事の合間をぬってオンライン診療を活用して受診することにしました。オンライン診療システム上で予約を行い、チャットで事前に問診もすませ、いよいよ診察の時間に。
 会社でオンライン会議は慣れていたため、さほど抵抗はなく、診察もオンライン上でスムーズに行われました。診察では一般的な食事・運動・薬物療法の説明に加え、服薬状況のモニタリング、遠隔診療による相談など包括的に支援が受けられる治療支援サービスの説明を受けました。どうやら、次回診療までの間、オンライン上で専属の看護師から糖尿病治療のコーチングを受けることが出来るとのことです。
 また、診察後は看護師から、今回処方された、糖尿病治療薬の説明に加え、治療用アプリが処方されたため、ダウンロードの方法や使い方についても説明を受けることになりました。糖尿病治療薬についても、直接薬局に出向く必要はなく、オンライン服薬指導を受けた後に、自宅に配送されるらしい。

【在宅】
 受診して2〜3日後に自宅に治療支援サービスキットが配送されました。中を見てみると、オンラインコーチングサポートの説明とともに、普段のバイタルデータを管理するウェアラブルデバイスも入っていました。以前処方され、ダウンロードした治療用アプリとも自動連携するようで、入力の手間も省けそうでした。
 早速、オンラインコーチングサポートを受けてみることに。糖尿病治療では、薬物療法での副作用の対処方法は勿論の事、食事・運動両方のポイントも相談できて非常に便利。治療モチベーションが下がってきたタイミングで、サポートを受けることが出来るのは非常に有難い。
 食事は、毎日写真で送付すると、アプリを通じて注意点などのアドバイスもくれるし、運動もウェアラブルデバイスを通じて取得された心拍数や歩行数、体温などの変化から毎日カロリー消費状況を自動で測定されて、アラート・アドバイスをくれます。

【2回目診察】
 再診時には、前回同様、仕事の合間にオンライン診療にて予約・受診。かなり前のことなのに、先生は細かく治療経過を理解してくれています。短い時間だったけど、食事・運動・服薬状況について細かく理解してくれており、的確なアドバイスを貰うことが出来ました。きっと事前に日常データを確認してくれていたのだろう。
 ここまでで、「20XX年における、田中さんの糖尿病治療」という架空のストーリーについて考えてみましたが如何だったでしょうか?「オンライン診療・服薬指導」を活用することで、仕事で忙しく時間のない田中さんでも、自宅から一歩もでることなく、本格的な糖尿病治療を受けることが出来ています。また、糖尿病治療を始めとした慢性疾患は、「受診と受診の間」の期間において、生活習慣に介入し、行動変容を起こすことが非常に重要とされており、「治療用アプリ・デバイス」×「治療支援プログラム」により、患者個別のデータを取得・モニタリングし、その結果を元に、コーチングによる行動変容を起こすことにも成功しています。

上記は、架空のストーリーではありますが、「次世代に求められるMRとは何か?」について考えるうえで、数年後の患者と医師の診療現場をストーリーとしてイメージしたうえで、「次世代MRは具体的にどの部分で貢献できるのか?」について考えてみることが重要です。

カスタマーサクセスMRは、医師とその先の患者を成功に導く“伴走者”となれ

前回、次世代営業・マーケティングモデルを考える中で、「医師とその先の患者の成功を導く“伴走者”」として、カスタマーサクセスMRを定義しました。従来のMRとの違いとして、「患者」を中心に情報提供を考えるという点です。勿論、従来のMR活動が患者を中心として考えていないというわけではなく、その比重がますます高まり、情報提供を考えるうえで第一優先に考えるべき視点になるということです。今後の大きな方向性として、患者の声・データの収集がリアルタイムに可能になることを踏まえても、患者視点を抜きにMRの役割を考えることは不可能でしょう。この点を踏まえ、具体的に「次世代に求められるMR」について考えてみたいと思います。

患者の声・データを収集分析し、治療支援プログラムを進化

生活習慣病を始めとした慢性疾患は「薬物治療」は勿論であるが、「食事・運動療法」を含むトータルでの治療介入が重要と言われています。しかし従来の診療では、診察と診察の間の「在宅」の期間に対して治療介入を行うことは難しく、診察時にはモチベーションが高い患者も、高いモチベーションを長期間に渡って維持することは難しく、次回診察までの間に、服薬を継続できなかったり、食事・運動がおろそかになったりし、結果、治療効果が十分得られないことが多い。

つまり薬剤による治療効果を最大化する為には、この「在宅」における期間での「行動変容」が非常に重要になってきます。この「行動変容」を起こすには、1.「患者個々の現状を正確に把握」し、2.「治療継続の為のモチベーションを支援」する必要があると思います。

1.    「患者個々の現状を正確に把握」に関しては、「ウェアラブルデバイス」「治療用アプリ」を通じ、患者のデータを取得することにより、「効果」、「服薬状況」、「副作用発生状況」、「食事・運動状況」、「疾患に対する理解度」等を把握することが出来ます。しかし、行動変容を起こすには、データを取得することだけでは不十分であり、2.「治療継続の為のモチベーションを支援」することが重要になってきます。

2.    「治療継続の為のモチベーション支援」では、「治療用アプリ」を通じたモチベーション支援機能に加え、「治療支援プログラム」の担当看護師のオンラインコーチングにより、患者自身のより深い情報の取得に加え、患者に応じた働きかけによりモチベーションを支援することが出来ます。

MRとしては、治療支援プログラムの担当看護師を通じて得られた自身の担当先の患者さんの情報を元に、担当先の情報提供に生かすことが出来ます。また逆に情報提供後の医師の反応をFBすることにより、治療支援プログラム自体を進化させることも可能となります。

従来の情報提供は、医師が中心であり患者情報を事前に入手し、情報提供に反映することは難しかったが、今後は患者情報を元にした情報提供が可能となり、医師との会話において常に「患者」を意識する事になるでしょう。

エリア病院のベンチマークデータを元に、担当先の課題を特定。また、エリアのガイドラインカスタマイズも支援

MRとして現場で回っていた時に、海外の大規模臨床試験のデータを医師に紹介する時に医師から以下の様なアドバイス頂く事が多かったのを覚えています。

「海外の臨床試験の結果を実診療に適用する際には、人種差、地域差、医療体制の差など様々要因を加味して考える必要がある」

確かに人種差、地域差、医療体制の差など、各病院で前提条件が異なる中、大規模臨床試験の結果をそのまま実臨床試験にあてはめるには限界がありました。むしろエリアの先生方にニーズが高いと感じたのは、「同じエリアの先生方がどの様な処方、治療を行っているか?」でした。実際にMRがハブとなり、エリアの症例検討会を開催したり、訪問の際にエリアの処方状況などをお伝えする事が多かったです。

今後、各種デバイスを通じた患者情報の収集が進むことにより、全国単位のみならずエリア単位での情報の収集・解析がリアルタイムに可能となります。

結果、MRとしては従来の最新の大規模臨床試験の情報提供に加え、担当病院のエリアデータと担当病院との差異等から、担当先の課題を特定し、医療現場に情報提供する事が可能となります。またもう一歩進め、メディカルアフェアーズ等と連携し、地域のガイドラインのカスタマイズ等の支援も行うこともMRの重要な役割の一つとなるかもしれません。

今こそ新時代のMR像を現場から発信するチャンス

COVID-19をきっかけに製薬業界ではデジタル化が進んでいます。その中で次世代営業・マーケティングモデルのあり方について論じられることが多いですが、次世代営業マーケティングモデルは単なる“デジタル化”ではないし、求められるMRは「デジタルを上手く使えるMR」ではないと思います。私の一つの考えとしては、カスタマーサクセスMRの様な「医師とその先の患者さんの成功を支援する専門化集団」であると考えています。勿論、人によってはこの定義は異なると思いますし、現時点では皆答えを探っている段階ではないかと思います。だからこそ、MRは現場で感じた課題を元に、新時代のMR像を現場から発信するチャンスではないかと感じています。

今回、10年前の現場で感じていた課題に対して、自身の考えを連載の中で纏める機会に恵まれましたが、是非現場のMRの皆さんも、活動の中で感じた課題を色々な媒体で積極的に発信して議論を重ねて言って欲しいと思います。今後MRの職責は益々重要なものとなるし、医療への貢献が益々求められる時代が迫っていると思います。その時までに日々の活動の中で課題に思った内容を「自分だったらどのように解決するか?」「その為に自分だったら何が出来るか?何が必要になるか?」と考え続け自身をアップデートすることが非常に大事だと思います。

連載は今回でいったん終了となりますが、同じ業界人として今後も新時代のMR像を議論し、共に形にしていければと考えています。4回に渡り最後までお付き合い頂き有難うございました。

「ミクス連載【全記事まとめ】の目次」